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「ラダック 懐かしい未来」のへレナ・ノーバーグ=ホッジ 聞き手 枝廣淳子 Interview01

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「地域化」こそが代替の経済モデル

 枝廣:
幸せ経済社会研究所を設立したのは、普通の人たちだけでなく、政治や経済の世界の人々も、ますます多くが、現在の経済モデルではうまくいかない、別のものが必要だと話しているのを聞くようになり、一方で、直売所や地域が支援する農業(CSA)、ダウンシフターズなど、地に足のついた事例を目にするようになったからです。一方には警告があり、一方では実践例があります。しかし、これらをつなげるため代替となるよい経済モデルを、私はまだ見つけられていません。
ヘレナ:
私が推進しようとしていることが、実は、その代替となる経済モデルなのです。根本的なレベルでは、分散化または地域化です。先ほどもお話したように、経済学には生態学についての知識が必要です。すべての命が多様性であり、だれもが個人として、団体として、文化として、人種として、独特なのです。さらに、世界各地の人々に影響を与えている一つの標準的な消費者モノカルチャーのイメージではなく、その多様性に適応しなければなりません。そのため、人間と生態系のために、私たちは経済活動を多様性に、つまり、異なる文化の現実に適応させなければなりません。
「地域化」は、現在政府が後押ししているグローバル化の方向とは逆です。グローバル化には、ある種のシステム的な特徴があります。第一に、生産物と消費者を分断し、投資家を投資対象から分断します。危険なことです。投資家たちは、自分たちのお金がどこでどのような影響を及ぼしているかをまったく知らないのです。それだけでも、道徳的な実践を行えないしくみであることがわかります。
しかし、距離を短くすれば、自分の行為の影響がわかるようになります。生産者として、消費者として、何か起きているかわかります。そうすれば、より道徳的になるでしょう。
距離が短くなれば、企業が社会の中でより見えるようになり、説明する義務をもつようになります。文化と生態学的な価値が、企業をかたちづくるようになるでしょう。現在は反対に、企業が文化と生態系と政府をかたちづくっています。地域化は、「企業は地域に根付いていなければならない」ということを意味します。多国籍企業ではなく、日本の企業、米国の企業、中国の企業でなければなりません。

映画「幸せの経済学より」

© 2011 ドキュメンタリー映画「幸せの経済学」

つながりのある幸せの経済学へ

 枝廣:
人々は抵抗や恐れを持ちがちです。権力のある人たちだけでなく、多くの一般の人々も、年金や雇用を確保するために、貨幣価値によって測られる経済活動の拡大が必須だと考えています。地域化が私たちの目指すべきものと仰いましたが、人々の抵抗や恐れに直面しませんか?
ヘレナ:
地域化というと、「昔のように小さな村に住んで、農民になるということでしょうか?」というように連想する人が多いですね。まず、大部分の人々の農村地域での経験は、長年社会的に無視されてきましたし、特に第二次世界大戦の後、農民たちの暮らしはとても厳しく、心理的にも物質的にも取り残されています。村にはお年寄りだけがいて、若者はさまざまな動きがあってワクワクする都市部にいる、ということが多いです。
ですから、地域化について説明するとき、私はまず、活気ある生き生きとした小さな町を作ることは可能だと話します。より健康な農業、林業、漁業を行うことができる場所なら、そこで働く人の数も多くなります。そこそこのお給料と敬意、それに仕事に伴う喜びがあれば、全体像はがらっと変わってしまうと思うのです。新しい農民による運動がありますし、とてもうまくいき、楽しんでいる例もたくさんあります。私が知っているなかで、いいなあ!と思うのは、「地元の食べ物を食べよう」という運動です。破産寸前で不幸せだった農家が今では繁栄しています。これらはすべて、政府による支援がないのに実現したのです。わずかな支援があれば、素晴らしいことが起きるでしょう。
「もし、今よりも小さな町、あるいは大きな町で同じ仕事ができるとしたら、どちらがいいですか?」という質問をたずねられたら、おそらく大多数の人たちが小さい町に住みたいと答えるでしょう。
地域化によって私たちの暮らしがより豊かになるということを明確に示す方法があると思います。しかも、あなたのお金が減るというわけではないのです。グローバル化の最大の錯覚は、「赤字によってGDPを上げることが私たちに恩恵をもたらしている」という考えです。私たちは貧しくなっているのです。人々が年金や雇用について心配しているのであれば、この経済についての知識に目を向けるべきです。社会での私たちの安全安心のためには、現在のシステムよりも地域化のほうがよいということに気がつくべきです。
 枝廣:
国や政府はどうでしょうか? 地域化が進み、人々がダウンシフトし始めると、税収が下がると恐れているのでしょうか?
ヘレナ:
実際のところ、世界中の政府は、巨大企業を後押ししているために貧しくなっています。巨大企業に補助金を与えても、お金が戻ってきません。多くの中小企業があったほうが、より健全で安定した税収の基盤ができます。間違いありません。
地域化が幸せの経済学であることの理由の一つは、グローバル化された消費文化から離れ、お互いにつながりのある暮らしへと移ることを意味しているからです。これは、多くの人々が認識しているよりもはるかに重要なことです。
幸せの経済学は、お互いとのつながりと、周りの自然や動物や植物とのつながりをもう一度作ることなのです。私たちはそうして進化してきました。この地球上に存在した過去の大部分において、そのように暮らしていました。それが私たちのあるべき姿なのです。つながりがあるからこそ人間なのです。
 枝廣:
いろいろなお話、とても考えさせられました。ありがとうございました。

映画「幸せの経済学より」

© 2011 ドキュメンタリー映画「幸せの経済学」

Economics Happiness 幸せの経済学

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ドキュメンタリー映画「幸せの経済学」

Message

地域化が幸せの経済学であることの理由の一つは、グローバル化された消費文化から離れ、お互いにつながりのある暮らしへと移ることを意味しているからです。これは、多くの人々が認識しているよりもはるかに重要なことです。

なぜなら、グローバル化の路線では、若者はロールモデルの影響を受けます。このロールモデルは、まったく一面的で、カンペキに見えて、美しく、金持ちで、賢いのです。そして、あなたは、どこに住んでいようと、「いまひとつ」なのです。これが世界的な問題であるということを私たちが認識することはとても重要だと思います。

米国の真ん中でも、私が育ったスウェーデンでも、最も美しい女の子はモデルのようでした。金髪で青い目の西洋人なのです。小さな6歳の女の子が、「私はもっと痩せなきゃ。食べるのをやめるわ」と言います。そして、餓死することさえあるのです。米国では、若者が整形手術をしたいと思っています。これは自己拒絶や自己嫌悪の、恐ろしい兆候です。これは蔓延しているうつ病、摂食障害、薬物乱用、アルコール依存症の増加と関連があります。私たちはこれにしっかりと目を向けなければなりません。大局的にみて、世界的に起きていることと、世界に広がるグローバル化された消費文化の原因と、その影響を認識しなければ、理解できません。

多くの地域社会で、すでに地域化が実証されています。メディア、ファッション、競争から離れようとすると子供へは、「愛されたい、仲間に認めてもらいたい、尊重してもらいたいと思うならば、最新のランニングシューズを持たなければ、最新のリーバイスを持たなければ、最新のおもちゃを持たなければ、少し大きくなると、最新のクルマを持たなければ」というメッセージが与えられます。子供は何よりも愛されたい、尊重されたいと思います。だから、この路線を進み、最終的には、他の人たちに羨ましがられ、隔離されるのです。愛され、つながりを深めるのではありません。

一方で、子供の周りに、理想的には異なる年齢層で構成された人たちがいて、1歳だけ、5歳だけ、といった競争が激しいモノカルチャーではなく、理想的には異なる世代の人たちと交流して、周りにもっと理解のある人たちがいれば、何を着ているとか、何を持っているかではなく、自分自身を知ることができるのです。親切だとか、ユーモアがあるとか、賢いとか、そんなことで認められます。何であれ、私たちには得意なこと、不得意なことがあります。カンペキな人などいません。そうすると、子供は、どんな人間になれるかという現実的な感覚を養うことができるのです。そうした仲間と一緒にいることで、存在を認められていると感じるのです。

ですから、顔が見える文化という暮らしの再活性化は、私たちの幸せにとって非常に大切です。地域化では、それが可能になるだけでなく、私たちの日常生活の一部になるという、経済の路線です。

幸せの経済学は、お互いとのつながりと、周りの自然や動物や植物とのつながりをもう一度作ることなのです。私たちはそうして進化してきました。この地球上に存在した過去の大部分において、そのように暮らしていました。それが私たちのあるべき姿なのです。つながりがあるからこそ人間なのです。



Profile

ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ( Helena Norberg-Hodge )

スウェーデン生まれ。ISEC*(International Society for Ecology and Culture)創設者、代表。世界中に広がるローカリゼーション運動のパイオニアで、グローバル経済がもたらす文化と農業に与える影響についての研究の第一人者。1975年、インドのラダック地方が観光客に開放された時、最初に入った海外からの訪問者の一人で、言語学者として、ラダック語の英語訳辞典を制作。以来、ラダックの暮らしに魅了され、毎年ラダックで暮らすようになる。そしてラダックで暮らす人々と共に、失われつつある文化や環境を保全するプロジェクトLEDeG ( The Ladakh Ecological Development Group)を開始。この活動が評価され1986年に、もう一つのノーベル賞と知られ、持続可能で公正な地球社会実現のために斬新で重要な貢献をした人々に与えられるライト・ライブリフッド賞を1986年に受賞。ダライ・ラマ法王の訪問も受けている。著書「ラダック懐かしい未来(Ancient Futures)」は日本語を含む40の言語に翻訳され、世界各国で高い評価を得ている。

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