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タイのエコロジー思想家 スラック・シワラック 聞き手 枝廣淳子 Interview03

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正しい「呼吸法」が内なる平和をもたらす。

枝廣:
私がスラックさんの本(『しあわせの開発学 エンゲージド・ブディズム入門』)を読んだときに、瞑想のための呼吸についてとても興味を覚えました。相互のつながりの感覚を取り戻して修復し、自然や周囲に自分たちを開放するためには、これが一つの方法だと思いますか?
スラック:
はい。呼吸はとても大切なのに、私たちは気にしていません。
私たちは不必要なものを捨てて、必要なものを見定めなくてはならないと思います。必要なものがわかると、私たちの人生において、最も大切なものがわかってきます。人々は気がついていませんが、最も大切な要素は、「呼吸」なのです。呼吸など大切ではないと思うならば、5分間息を止めてみてください。死んでしまいますよ。
枝廣:
(笑)
スラック:
正しい呼吸法は、とても簡単です。朝起きたら、急がずに2~3分間、息を吸って吐きます。その日に感謝しましょう。雨が降っていたら、きれいで、しっとりとしていますね。お日様の光もきれいです。いまこの瞬間が最良のときです。
不安を抱えながら、汚染まみれの中で呼吸するのではなく、安らぎを感じながら、慌てずにゆっくりと呼吸するのです。穏やかに息を吸い、安らぎを感じながら息を吐き出します。
ブッダは安らぎを感じるためにあなたの手助けをしてくれたのです。忍耐は素晴らしいことです。まず、物事を前向きに見ることができます。
第二に、穏やかになることを学びましょう。内に平和をもたらすのです。さもなければ、とても暴力的になります。だから、呼吸をしましょう。深い呼吸をすることで、穏やかになることができます。
次の段階では、意識を再インストールする方法を学ばなければなりません。ほかの人たちとつながっていることに気づくためです。貧しい人々とつながらなければなりません。彼らの苦しみは私たちの苦しみです。私たちのライフスタイルが彼らの苦しみを生み出しています。貧しい人と交わり、友達である彼らから学ぶのです。そうして私たちは変化するのだと思います。
仏教では、私たちは誰にでも仏性があると言われています。クエーカー教徒たちは、私たち誰もが、内に神性があると信じています。実に素晴らしいですね。つまり、私たちには何か特別ところがあるということです。だからといって傲慢になるべきではありません。特別であるということは、親切になるべきということを意味します。謙虚でなければなりません。ほかの人たちに奉仕をして、ほかの人たちが幸せになるように手助けをしたいと思うほど、私たちは幸せになるはずです。あなたが幸せになりたいと願うならば、不幸な人たちのお世話をしましょう。財産が多ければ多いほど、人は不幸になります。
そして、すべてのもののつながりを感じてみましょう。私の母国タイでは、敬意を込めて、川を「母なる水」、地球を「母なる地球」、コメを「母なるコメ」と呼びます。毎年、地球の水というお祭りも開催しますが、現在ではこうしたお祭りの企画は観光のためだけになってしまいました。お金がすべてで、何でも売り物になります。ですから、私たちは、例えば呼吸といった、大切なものや相互のつながりに立ち戻らなければならないと思います。

「非暴力」という新しいパラダイム

枝廣:
そうですね。深い呼吸と互いにつながっている感覚を取り戻すことは、個人として取り掛かることができます。しかし、グローバリゼーションのために消費主義を促す社会の構造を変えるためには、お金を中心とした、成長を目指す社会や経済からどのように抜け出すことができるでしょうか?
スラック:
二つの方法があります。意識を取り戻す方法を学び、何が大切かわかれば、例えば自動車は有益だけど、有害でもあることがわかります。お金や思想は有益だけど有害でもあります。
それを心に留めた上で、あなたには手助けをしてくれる「よき友」も必要です。あなたよりも経験が多く、例えば仏教経済学について学び、社会の構造について勉強しており、暴力を有害なものだと考えている人たちです。私たちは、そうしたよき友から学びます。よき友は、あなたが聞きたくないことを教えてくれますし、意識の声にもなってくれます。
社会の構造を変えたければ、それを理解しなければなりません。圧制的なシステムは望みませんが、抑圧者を憎むべきではありません。憎むと暴力的な手段を取りたくなります。それは構造を変えるための答えではありません。
ダライ・ラマは非常によい例です。チベットは50年間、中国に占領されています。6,000以上の寺院が焼き払われ、多くの僧侶が殺され、多くの尼僧が拷問され強姦されました。しかし、ダライ・ラマが求めたのは、中国人を愛するということです。中国人も同じ人間で、仏性を持っています。だから、中国人と対話し、私たちは一緒に変わるべきなのです。
なんて素晴らしいやり方なのだろうと思います。徹底していますよね。ダライ・ラマは、私たち一人一人が自分の中で平和を築くことができなければ、世界平和は実現しないと言いました。これは最も難しいことですが、それしか方法はないそうです。
昔のやり方では、革命はすべて暴力的でした。しかし暴力が平和をもたらすことは決してありませんでした。ですから私たちは、非暴力という新しいパラダイムを始めなくてはならないのです。
枝廣:
ええ、非暴力ですね。例えば、日本政府が福島での原発事故や地震の被災地での対応を誤っているのを見ると、日本政府や官僚や大企業に対して嫌悪感を覚えるのもまったく当然です。しかし、スラックさんは、こうした人たちも愛さなければならないと言います。同時に私たちは自分たち自身を変えることができます。自ら変わろうとする人の数が増えれば、私たちは社会や経済を変えることができるかもしれません。
スラック:
はい。5年前に、私は、ビルマからの天然ガスのパイプラインを妨害したことで逮捕されました。米国とフランスの大手国際企業が、ビルマとタイの政府と協力して、ビルマの森を破壊してパイプラインを設置し、ビルマ政府に反抗した多くの少数民族を殺しました。そしてタイへやってきて原生林を破壊しました。私は彼らを止めるために行き、逮捕されました。
私は彼らを嫌いませんでした。そして結局、私を逮捕した大臣は私に謝罪しました。私が逮捕されるように仕向けたタイの企業も、今では間違いを犯したと気がついています。彼らとは、最後にはよい友達になりました。よき友を持つことは、人生において素晴らしいことです。考え方もやり方も違うかもしれません。でもこうして物事を変えていくのだと思います。
枝廣:
しかし、自分を逮捕した人たちとどうしたら友達になれるのでしょうか? 違いを乗り越えたから、それともビジョンを共有できたからですか?
スラック:
ここでまさしく、正しい呼吸が必要になると思います。
枝廣:
なるほど。
スラック:

あなたも呼吸をしますが、彼も呼吸します。木も呼吸します。木を切りたくありません。すべての木が死んでしまったら、私たちは生き残ることができません。チベット人から多くのことを学びました。

この杖は、数年前にワシントンDCでデモに参加したときに米国人女性からもらったものです。そのとき一緒に歩いた僧侶は、18年間、中国政府の拷問を受けたそうです。彼は私より20歳年上だったのですが、はるかに若く見えました。ですから、私は彼に「どうやって若さを保ったのですか?」と尋ねました。彼は「拷問されたとき、深い呼吸をしていました」と答えたのです。また、彼を拷問している人を許すように祈ったそうです。ようやく彼は釈放され、彼らは友達になりました。

憎悪はあなたの助けになりません。腹が立ち、暴力的になります。暴力を減らし、慈愛を育むのです。まず、自分自身に、友達に、両親に、そして、見知らぬ人たちに、あなたと対立する人たちに慈愛を広げます。そうした考え方です。

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