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富山市長 森雅志 聞き手 枝廣淳子 Interview07

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削るべきところ、造るべきものはどこか?
絶えず財政状況を見ながら進めている

森:
でも、何でも削っていくわけではないんですよ。富山市には、市役所の本庁のほかに、住民票や税や諸証明の対応ができる出先機関が79もあるんです。1カ所当たりの人口は5,279人ですから、きめの細かいことをface to faceでできます。今ではみんな、ICTだ、ワンストップサービスだ、コールセンターだと言いますが、違うんじゃないかと思うんです。高齢者の皆さんにしてみたら、やっぱりface to faceで相談に乗ってくれる場所のほうがいい。
だから、僕はこれはファシリティ・マネジメントの対象とはしたくない。公立の公民館も、富山市はたくさんあります。図書館もそうです。こういうことはきちんと応援する。そのための財源をつくるためにも、その他の施設を早くスリム化したいと思っています。
絶えず財政状況を見ながら進めていきます。一方ではファシリティ・マネジメントを進めて市民に痛みを我慢してもらうとするなら、市でもきちんと人件費を減らしていくなどの取り組みが必要です。でも、それを給料カットでやると士気にかかわります。だから、富山市では、職員の給与はカットせずに、人件費は減らしています。平成17年度に比べて11%の減少です。
枝廣:
どうやって減らしているのですか?
森:
なるべく残業をしないようにしているんです。職員には、給与はなるべく確保すると言ってあります。だって、嫌でしょう?
 
行政には、明治時代から残っている企業文化みたいなものがあって、「月曜日から金曜日まで仕事をして、できなかったら土日にやればいい」「夕方5時半ごろ、市民が来なくなってからゆっくり仕事しよう」――だから、残業代が膨らむんですよね。議会対応の時期なら、土日も出て答弁の準備をしている。
そこで、僕が、とにかくみんな、土曜日か日曜日、どっちか休もうと言いました。現在では、市庁舎の電気は18時になるといったん切られます。そのあと自分で電気を点けて残業できますが、許可は最大限20時までです。20時になったら、建物の電気は消えます。
財政の面よりも、小学生の子どもを持つ女性職員が夜22時、23時まで働いているのは絶対に不健全だと思うからです。早く家へ帰って、ワーク・ライフ・バランスをちゃんととろう、そのためには、月曜日から金曜日までに仕事を終わらせる文化に変えなくては、と思って働きかけをしています。
枝廣:
ワーク・ライフ・バランスがとれるようになれば、やる気になるし、働きやすくなるし、いいですよね。
森:
2005年の4月1日に合併してちょうど8年ですが、企業特別会計を含む連結では、起債残高を大きく減らしています。意識しながら財政運営をしています。いざ困ったときのための財政調整基金というのもありますが、ほとんど使っていません。除雪などで使ったら、次の年に積み戻しています。

世界からも注目される取り組み

枝廣:
世界の多くの都市のお手本ですね!
森:
コンパクトシティ政策報告書 (2012.3『Compact City Policies』)

コンパクトシティ政策報告書 (2012.3)

こういった取り組みが評価され、2012年6月、OECDが選ぶコンパクトシティの世界の先進モデル5都市に選出されました。選ばれたのは、メルボルン、バンクーバー、パリ、ポートランド、富山市ですが、唯一人口が減っているのは富山です。OECDには「東アジアにこれからいくつか出てくる人口減少高齢社会でのコンパクトシティ戦略のモデルだ」と評価されました。

この評価のためか、2013年に入ってから、4月にバリ島での国連の会議で基調講演を依頼され、4月、5月にもジュネーブとニースの国際会議に招聘されました。
左:第7回アジアEST地域フォーラム(2013.4.24インドネシア・バリ)/右:自転車利用のための地域・街づくり推進協会第20回会議(2013.5.30フランス・ニース)

左:第7回アジアEST地域フォーラム(2013.4.24インドネシア・バリ)
右:自転車利用のための地域・街づくり推進協会第20回会議(2013.5.30フランス・ニース)

枝廣:
世界に先駆けて人口減少・高齢社会に入った日本のなかで、持続可能で幸せな暮らしに向けての都市作りの成果をあげているのはすばらしいですね。きちんとした現状のデータの分析と今後の予測、わくわくするようなアイディアと、市民にきちんと説明し、説得する力を併せ持っていらっしゃるからこそ、ということがよくわかりました。今後も応援しています。ありがとうございました。
Profile

森 雅志(もり まさし)

富山市長

森 雅志(もり まさし)富山市長

1952年8月13日生まれ。中央大学法学部卒。
1995年4月、富山県議会議員に初当選。
2002年1月に旧富山市長に、2005年4月に新富山市長に初当選。以後、富山市政を担う。

「公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり」を基本政策に、人口減少時代にあっても魅力あるまちづくりを推進するとともに、若者たちが将来の暮らしに希望を持てるよう、20年後、30年後の世代にも評価される施策をぶれずに進めていくことに全力で取り組む。

好きな言葉は、「知行合一」(行動が伴わなければ、真に知っているとは言えないこと)。
趣味は、雑文を書くこと、登山、韓国語会話、イタリア語会話、サックス演奏など。休日には乗馬やヨットを楽しむなど富山の豊かな自然を満喫して過ごす。

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