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鎌倉投信株式会社 取締役資産運用部長 新井和宏 聞き手 枝廣淳子 Interview12

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ステークホルダーは「地球」

枝廣:
本のなかで、「いい会社の見つけ方」として「大量生産・大量消費を目指さない」と記されています。「必要なものを、必要な分だけ。その考え方が、現代を生き抜く商品やサービスを生むと思います」とあって、その通りだと思います。そのような会社が増えることが鍵だと思っているんですが、このあたりについてはどのように見ていらっしゃいますか。
新井:
一番前を行っておられるのは、こちらも投資先ではありませんが、パタゴニアさんだと思っています。あのような会社が増えてくれたらいいなと。
patagonia(パタゴニア)のWebサイト
まず「大量生産・大量消費を目指さない」と掲げてほしい、というのが1つ目です。製造業でもサービス業でも、まず大量生産・大量消費を否定していただくことが最も必要だと思っている。それを現実に言っている会社は存在しています。たとえば鎌倉投信の投資先で言うと、長野にあるKOA株式会社です。スマートフォンなどに入っている電気の抵抗器を作っているメーカーで、この時代、とても需要があるので、大量生産・大量消費そのものを歓迎するだろうと思うのですが、違うんですよ。メーカーにもかかわらず、ステークホルダーに「地球」と書いてある。 
KOA株式会社のWebサイト
枝廣:
すごいですね。
新井:
大量生産・大量消費でない社会になったとき、自分たちがどうあるべきかということを考えてずっと計画を練っています。森の中にあるような会社で、森林塾も運営されているんですね。そういう会社を私たちは守らなければいけないんです。
彼らがほかの機関投資家から何を言われるかというと、ROE(自己資本利益率・Return On Equity)が低い、と。ROE以外にも大切なものはあるでしょう。
子どもの教育と一緒で、偏差値のみが大事だと言っているのと変わらないんです。企業というのは個性があるべきなんです。多様でなければ価格競争に陥るとわかっているのに、ROEしか掲げなければ、価格競争に巻き込まれる会社をどんどんつくるだけですよ。そうではない会社をつくっていかなければなりません。
KOA株式会社のROEが低いのには理由があります。実は、本社工場以外に村単位で工場があるからです。なぜ村単位であるかと言うと、もともと養蚕が盛んな地域だったんですね。そこで、養蚕業に代わる産業として、電器という分野に参入しました。電器の抵抗器は一番短いラインの場合、2メートルぐらいの場所があればいいので、養蚕業が行われていた村単位のまま、工場のラインを置いたんです。それを「無駄ではないか」と言われるわけです。
「本社にまとめれば1個所で済むし、効率的になるだろう」と一般的には言いますが、そこに効率性を追っては駄目だと思います。地域の雇用がなくなれば、当然ながら若い人は出ていってしまいます。過疎化がどんどん進む。そんなことをしてはいけない。
だから各村でやっている工場の意味を、僕らは社会価値としてきちんと表現しないといけません。これからやろうとしているんですけど、その村に工場があることによって社会価値がどれだけ生み出されているのかということをきちんと数字で報告する。そうすることによって、彼らの職を守り、維持できるようにする。株主として「この経営方法を続けなさい」と言い続けることをやらなければいけない。これは私たちが、ある種「ヘンタイ」なので、やり続けようと思っていることです。

「ヘンタイ」のリーダーとして

新井:
一昨年は別の会社で同様のことをやりました。投資先にエフピコさんという会社があるのですが、エフピコさんは重度の知的障碍者を中心に、約400人の障碍者を正社員として雇用していて、障碍者雇用率が15%くらいです。日本の上場企業ではダントツのトップです。そこで現在は、取引先の障碍者雇用を支援しようと、エフピコの特例子会社社長の且田さんが取引先30社の顧問を無料でされています。条件は2つ。「障碍者を本業で雇用すること」と「全員正社員で雇用すること」。この2つさえ守れば、無料で顧問を引き受けるとおっしゃっています。
株式会社エフピコのWebサイト
でもそれは、自社のどこにも、CSRレポートにも、掲載されない情報なんです。自社ではなく、他社のお手伝いですから、他社の事例になってしまうからです。そこで大学の先生にお願いしてその活動の一部を数値化していただき、会社にそのレポートを出して、この取り組みを続けさせてくださいと言っています。インプットに対してアウトプットが十何倍もある。これは海外の事例よりも素晴らしい実績です。
さらに、なるべく対外的に発信していこうと、今は総務省や日本財団にレポートを提出しています。出せば出すほど、「続けるようという圧力」が大きくなるから、やっています。
枝廣:
面白いですね!
新井:
変わっていますよね、相当。やっぱり「ヘンタイ」のリーダーでなければいけない。でも僕は、株主はそうあるべきだと思う。企業の社会価値を上げれば、結果ファンが増える。商品やサービスが飽和している中で消費者が何を選択するかというと単純に、「共感」です。
ほかの運輸会社さんとヤマトさん、どちらを選びますかといえば、純利益の4割、142億を東北に寄付する会社のほうがいいに決まっていると思いませんか。サービスはほぼ同じです。そういう選択をしてもらえるよう、社会価値を上げていけばいい。その結果として、お客様の満足にもなる。そういう社会価値を上げていく活動を、株主としてやっていけばいいんです。企業の社会価値を上げていく。「この会社はいい会社だ」と言う。いい会社になるように一生懸命支える。本来、株主はそういうものだと思っています。
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