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クルミドコーヒー店主、株式会社フェスティナレンテ 代表取締役 影山知明 聞き手 枝廣淳子 Interview16

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「健全な負債感」が宿る関係
大事な価値観をつくる

枝廣:
さきほどの「ギブから始まる」という話と、「人と人の交換が大事」という影山さんのご本もそうですが、経済も人間関係も、"ししおどし"というか、シーソーというか、等価になると動きが止まるんですね。ですから、「ちょっともらいすぎたな」とか、今度は向こうが「もらいすぎたな」と思うような、等価にならないことがエネルギーを生み出して、モノとか気持ちの交換がつながっていくということだと思っています。
影山さんが「健全な負債感」とおっしゃったのが、すごくいい言葉だなと思っていて、内山節さんの本だと、「反対給付義務」という、ちょっと硬い言葉ですけど、もらったから反対にこちらから差し出さないといけない義務が生じるということですよね。そういった意味で言うと、チャラにしないということがすごく大事なんだろうなと思いました。
その時に思い出したのが、私は地域のビジョンや元気をつくるお手伝いをしているんですが、1つは、山形に行った時にまちづくりをやっている方と話をしていて、その方に何かをいただいたんですね。なので、東京に帰ってきてすぐにお礼の品を送ったら怒られたんです。「すぐに返すものじゃない。ばか」と言って。口の悪い人だったんですけど、そういうものじゃないんだとおっしゃられました。
それから、今かかわっている島根県の海士町でも、ある建設会社の専務さんが、自分の休日を全部使って高校の菜園づくりを手伝ったり、家庭の庭をつくりたいという方がいると自分でやってしまうんですね。社員を使うとお金がかかるから自分がやると。その話をしていた時に、「お金を返されたら怒る。もう絶対やらない」という話をしていました。お金でチャラにしてはいかんということは、おそらく地方には今でもあるのでしょうね。
そう考えると、さきほどの7,000円だとチャラになっちゃうという、こちらのエネルギーの負債感がなくなる、お金をチャラにしてしまう怖さをすごく感じました。これは、お金のチカラとして現実にありますよね?
影山:
そうですね。すごく便利な道具であるだけに、関係を省略できると言いますか、何事でもそうだと思います。
たとえば、僕は今、髪がボサボサで何とかしたいと思っているんですけど、髪を切ってもらうときに、美容室に飛び込んで、3,000円なら3,000円、5,000円なら5,000円払えば、僕が何者であろうと切ってくれます。すごく便利ですよね。だけど、たとえば自分の知り合いに、友人関係の中で切ってもらおうと思うと、お金はかからないかもしれないけど、いろいろやり取りは発生するわけです。
そういう意味で、お金を使うことで、関係を省略できることは間違いなくあって、お金を使わない人生は、そういう意味ですごく人間関係は豊かになるかもしれないけど、面倒でもある。ある部分でお金に頼ることはあってもいいと思うんですけど。実は、気が付いてみると、今、すべてがそれになっていやしないかという問題意識が出てくるところです。
枝廣:
そうすると、値段だけじゃない、お金だけじゃないという、ほかにも大事な価値観、それを大事にしようよということと、その場その場でチャラにしない、負債感を感じたり、それをいつどこでお返ししようかなと考え続けたり、価値観と時間軸が複雑化することの豊かさのポイントを影山さんはつくっていらっしゃいますよね。また、そういうものにひかれる人たちが増えていると思います。短期的な効率至上主義のこれまでの資本主義では、そのあたりは最初に抹殺されます。

複線的な価値の交換ができる市場をめざして

枝廣:
影山さんから「別に人が悪いのではなく、システムの力でそうなっている」というお話がありました。システム思考の考え方ですよね。問題をどこからどう変えていったらいいのかというとき、影山さんは国分寺でクルミドコーヒーをやるという選択をとられた。それは、勝算があるというと変な言い方ですが、どういうふうに捉えて進んでこられたか、またこれから進んでいかれようとしていますか。
影山:
すごく大事な問題提起だと思います。システムはあらゆる領域で、政治にもそういうシステムがあるし、教育にも医療にもあらゆる分野にあることだと思います。こと経済に関して言うと、経済の取引はすごく単純化すると、2つしかないと思っています。「売り買い」か「貸し借り」ということですね。
売り買いというのは、狭義で言う「実体経済」ですが、貸し借りは「金融」と呼ばれます。売り買いと貸し借りの両方の制度設計を変えることに挑みたいんですね。売り買いの制度設計を変えることの第一義が、通貨を変えるということだと思っています。それが変わることで、交換の動機が180度変わってくるという面があります。

国分寺地域通貨「ぶんじ」「ぶんじ」について

もう1つ残されているのが、金融の制度設計を変えるということです。さっき言ったように、結局はお金の出し手が、受け手に対する発言権を持ってくるという側面があるので、ここの関係性が変わらないと、どうしても、何よりお金が大事というふうに、経営者は振る舞わざるを得ないということがあるので、それを変える。
どういうことかと言うと、実際に一部、僕が名前だけ出していたんですが、ミュージックセキュリティーズという会社の中でやっていることです。金銭的な価値だけではない価値を交換する資本市場をつくりたいと思っています。
具体的に言うと、クルミドコーヒー、今度2つ目のお店をつくろうとしています。
胡桃堂喫茶店

※2017年、国分寺市に2店目となる「胡桃堂喫茶店」をオープンされました。
たとえば、ざっと言って3,000万ぐらいお金がかかるとします。この3,000万をどうやって調達するかというときに、セキュリテという仕組みを使って、小口の1口5万円みたいなお金で集めてみたいなと思っています。
チャレンジしてみたいのは、5万円出したときに、お金としては、たとえば4万円しか戻ってこない、みたいな制度設計ができないかなと思っていて。5万円出して、お金としては4万円しか返ってこない。利回り-20%です。だけど、その結果、お店ができたということや、減ってしまった金銭的な価値を補えるだけの何か別の社会的な価値が生み出されるということを信じられれば、お金が減ってもいいから出すと思う人はいるんじゃないかと思うんですね。
そうすると、お金の貸し借りの関係が複線化したということになります。お金として行って帰ってくるだけはなく、それ以外の価値に対しての投資が行われることになる。そうしていくと、今の資本主義、資本主導という仕組みの中でも、金銭的な価値以外の価値を取り扱うことができるようになってくると思います。
そのセキュリテみたいな仕組みが、東京証券取引所を補うような存在に育っていったらいいなということも見据えながら、やっているところです。
ミュージックセキュリティーズ株式会社のウェブサイトよりクルミドコーヒーファンド(募集は終了しています)
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