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クルミドコーヒー店主、株式会社フェスティナレンテ 代表取締役 影山知明 聞き手 枝廣淳子 Interview16

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Eさん:
お店を立ち上げて今まで、体験的に、イメージ的に幸せを考えたことがありましたか? 幸せと経済のつながりについて、さかのぼって考えると、経済の中のどこに幸せがあるのでしょうか?
影山:
今日は幸せというテーマについてあまり言及ができなかったのですが、これも研究されている方もいらっしゃる中で言うのもはばかられますが、僕なりに幸せな人生とか幸せな社会を考えたとき、指標になるものは、今から言う2つの質問に「YES」と答えられるかどうかではないかと思っています。
1つは、「あなたは誰かの役に立っていると思いますか」「自分は社会に役割があると感じていますか」という質問に「YES」と答えられること。もう1つは、「あなたが本当に困ったときに助けてくれる人がいますか」という質問に、「YES」と答えられること。この2つに「YES」と答えられるのであれば、網羅的ではないかもしれないですけど、かなり幸せな人生ではないかと思います。
言葉を置き換えると、前者は「自己効力感」だということだと思います。自分が社会において何か役割を担っていて、必要とされているという感覚を持てる。自分には効力があるということを実感できる気持ち。一方で、困ったときに助けてもらえるとか、自分に役割があるなしにかかわらず、自分は自分でいいと思える気持ち。これを「自己肯定感」といえるかなと思います。
自己効力感と自己肯定感は、少し似ている言葉ですが、ニュアンスは違うと思います。僕らがお店をやるに際してまず心掛けているのは、お客さんにとっても、スタッフの一人ひとりにとっても、自己肯定感を感じられる場であることが、スタート地点にあります。
たとえば、お客さんがお店に来るときに、人によってはすごく緊張して、お店の扉を開けて来られる方もいらっしゃると思います。また一方、すごく期待して入ってくる人もいる。そのときに、スタッフが別の作業をしながらその人を見るでもなく、「いらっしゃいませ」と振舞っていたとすると、お客さんに場違いな所に来ちゃったなと思わせないとも限らない。
だから僕らはお店の一連の業務の中で、ある意味、最も大事だと言ってもいいことは、お客さんをどうお迎えするかということだと思います。入ってきてくださった方に正対して、どうしても作業上そちらに体を向けられない場合も、視線や気持ちをちゃんとその人に向けて、その人を受け止めた上で出てくる言葉をその人にかける。それは「いらっしゃいませ」かもしれないし、「こんにちは」「今日は暑いですね」かもしれない。その人を受け止めたときに、自分の内側をちゃんと通った言葉をかける。マニュアルに定められた言葉ではなくて。
そうやって、受け止めてあげたということがあいさつで示せると、来てくださった方が、自分はここに来ていいんだ、ここにいていいんだと安心できる。そうすると、お店の中でのスタッフとのやり取りも、その先すごく気持ちがいい形でできるなと思いました。お客さんの存在を肯定してあげるということは、お店にできる役割の一つなのだと思います。
一方で、うちのスタッフについては、人生の途中でいろいろ悩んだり傷ついたりしてきた人も中にはいます。そうした中、「今月はどれだけの成績が出せたか」とか、「ケーキを作るのに何分かかったかとか、その人の機能性を評価するところから入ってしまうと、常に試され続けているという負荷を与えることになる。
そうではなくて、「仕事ができようができまいが、ケーキを作るのが早かろうが遅かろうが、あなたはあなたでいい」ということを、ちゃんと伝えてあげる。認めてあげるということがベースラインにあると、スタッフも安心感があるからチャレンジができます。仕事に関係なく、自分は自分でいい、帰れる場所があると思うと、挑戦する気持ちも沸いてきます。
挑戦は、うまくいくこともあれば失敗することもあります。その中でちょっとでも成功できると、「自分はやればできるんだ」という効力感を感じられるようになる。肯定感に基づいた効力感みたいなことを実現していくことが、お客さん方向でもスタッフ方向でも心掛けていることです。そういうものを感じられる人生をそれぞれがめざしていくと、それはかなり幸せな状況になるんじゃないかと思っています。

クルミドコーヒー店内の各テーブルには、殻付きクルミが置いてあり、木製のくるみ割り器を使って自由にいただくことができます。

枝廣:
今の自己肯定感と自己効力感、私がよく使う違う言葉で言うと、「居場所」と「出番」。自分はここにいていいんだという「居場所」があって、自分を求めてくれる人がいるという「出番」。それは幸せの条件として同じことを言っているなと思いました。
2つ目のお店、金融の融資の仕組み、国分寺をどういうふうに変えてくか、それが変わっていくことで日本にどういう影響を広げていくかということを、また一緒にお話しできたらうれしいなと思います。 今日はどうもありがとうございました。
Profile

影山 知明(かげやま ともあき)

写真:影山知明

1973年、東京都国分寺市生まれ、愛知県岡崎市育ち。
大学卒業後、経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、独立系ベンチャーキャピタルを共同創業。総額30億円のファンドを立ち上げ、投資先とリスク/リターンを共有した事業開発に従事。
2008年、空き家となった生家を建て替え、多世代型シェアハウス『マージュ西国分寺』をオープン。1階に、こどもたちのためのカフェ『クルミドコーヒー』を開業。開かれた場づくりから、一人ひとりが「いきる」社会づくりに取り組む。2015年、NHKテレビ NEWS WEB の第4期ネットナビゲーター(火曜日担当)も務めた。 著書に、『ゆっくり、いそげ ~カフェからはじめる人を手段化しない経済~』(大和書房、2015)。

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