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ポストカーボン研究所上級研究者 リチャード・ ハインバーグ 聞き手 枝廣淳子 Interview17

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電化社会の可能性

枝廣:
そういう意味では、私たちは現在、電化社会へと移行しつつあります。この状況をどのようにご覧になっていますか?
リチャード:
そうですね。電力の供給源は地元にあることが多いので、特に日本のように化石燃料がない国では、化石燃料よりは良いといえるのではないでしょうか?日本は、地元産の電力をもっと供給するために、地熱と同様、太陽光や風力を活用することができます。電力の供給源を、自分たちで所有することができるのです。
枝廣:
なるほど。重複性が重要なので、電化社会は、私たちが多様な電源を持っている限り問題ないということですね。
リチャード:
電化社会では、たくさんのバッテリーが必要です。ただし、エネルギーの原料は、もしかすると中央アジアやアフリカから供給されているかもしれませんので、供給源については、常に心に留めておく必要があります。

心理的なレジリエンス

枝廣:
コミュニティのレジリエンスを高めるために2つのアドバイスをくださいました。一つは、サプライチェーンを短くすること、もう一つは、重複性を持つことです。他にアドバイスはありますか?
リチャード:
心理的なレジリエンスです。人々は衝撃がいつ来てもおかしくないと気がついたとき、恐れを感じるでしょう。恐れによって、私たちの心理的なレジリエンスは損なわれます。ですから、コミュニティで一緒に計画を立てることが重要です。そうすれば恐れは弱まり、津波や地震などに耐えることができます。PTSDが生じるかもしれませんし、将来さらなる衝撃が生じるかもしれないと考えることは、怖いことかも知れません。しかし、「何が難題なのか」、そして「どんな対策が可能か」について、お互いに語り合えば、恐れは軽減します。自信がつき、難題に立ち向かう個人的・集団的な能力も高まります。

レジリエンスの評価・測定の持つ可能性

枝廣:
素晴らしいアドバイスです。地域コミュニティのレジリエンスについて、成功例をご存知ですか?
リチャード:
そうですね。残念ながら、レジリエンスは、海岸沿いのコミュニティで用いられるように非常に狭義に捉えられることが多いです。こうしたコミュニティは、海面上昇に対して脆弱であることを自覚していて、建物を海岸から遠い場所や、高い場所に建築したいと望んでいます。それは良いことですし、重要です。しかし、レジリエンスの包括的な理解であるとは言えません。
ニューヨークシティなどでは、ハリケーン・サンディによる洪水のあと、レジリエンスの評価を行いました。その結果、レジリエンスのうち海面上昇のような側面だけを見ていた人々が、食料のシステムや電源といった側面を見るようになったのです。このレジリエンス評価は、教育的なプロセスになっていることがわかりました。それはコミュニティにとって大切なはじめの一歩かもしれません。コミュニティのレジリエンスの評価を行うことは、何が脆弱なのかを知るとともに、コミュニティにある資産を活かす機会を知ることでもあります。
枝廣:
利用できるコミュニティ評価のフォーマットなどはあるのでしょうか。
リチャード:
私たちはresilience.orgというウェブサイトを運営しているのですが、そこでは世界中で行われている心理的・社会的、そして実用的なレジリエンスを構築するための取り組みについて日々情報をアップデートしています。その中に、レジリエンス評価についての情報もあります。
枝廣:
情報だけではなく実例もあるのですね。ぜひ見てみます。本日は、たくさんの具体的なアイデアを紹介していただき、どうもありがとうございました。
Profile

リチャード・ハインバーク(Richard Heinberg)

写真:リチャード・ハインバーク

米国のジャーナリスト・教育者。ポスト・カーボン研究所上級研究員。石油の枯渇問題などエネルギー、経済、生態系について造詣が深い。The End of Growth: Adapting to Our New Economic Reality(未邦訳、仮題『成長の終焉:新たな経済実態への適応』など13冊の著作がある。また、オンライン連続講座「Think resilience」の講師も務めている。

ポスト・カーボン研究所のウェブサイト(英語)
https://www.postcarbon.org/
オンライン講座「Think Resilience」のウェブサイト(英語)
https://education.resilience.org/
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