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日本のトランジション・タウンと地域のエネルギー自立にチャレンジ「藤野電力」

日本のトランジション・タウンと地域のエネルギー自立にチャレンジ「藤野電力」

※JFS ニュースレター No.121 (2012年9月号)より転載※
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/032300.html

神奈川県の北西に位置する相模原市旧藤野町(※)は、都心より約1時間の距離にありながら、山や湖など自然豊かな山間にある人口約1万人の、のどかな町です。また、芸術の振興に力を入れる芸術の町として知られ、町のいたるところに芸術作品を見ることができます。この豊かな自然と文化が共存する町が今、持続可能な町づくり、トランジション・タウンの活動で注目を集めています。

トランジション・タウンの活動とその広がり

トランジション・タウンとはどのような活動なのでしょう? パーマカルチャーの理論を町づくりに応用したのがトランジション・タウンです。パーマカルチャーとはオーストラリアで生まれた考え方で、人間にとって持続可能な環境をつくり出すためのライフスタイルをデザインし、またそれを実践していくことです。その言葉は、パーマネント(permanent:永久の)とアグリカルチャー(agriculture:農業)の造語で、カルチャー(culture:文化)の意味も含んでします。

トランジション・タウンは、2005年秋にイギリスの小さな町トットネスで、パーマカルチャーの講師であったロブ・ホプキンスにより立ち上げられました。その後、その活動に賛同する人々によって、イギリス全土はもとより世界中に広がりました。2012年7月現在で、世界では900市町村でトランジション・タウンが生まれ、準備中を含めると1,800市町村に上ります。

トランジション・タウンの「トランジション」には、「移行する」という意味があります。トランジション・タウンとは、ピークオイルや気候変動などの危機を受け入れ、地域にもともとある資源やそこに住む人々のスキル、創造力を最大限活用しながら、コミュニティを持続可能なものへ移行させていく草の根運動です。

日本でのトランジション・タウンの始まりは、神奈川県のパーマカルチャー塾で知り合った仲間たちが2008年6月にトランジション・ジャパンという団体を立ち上げ、2008年秋から2009年にかけて神奈川県の藤野・葉山、東京の小金井の3つの地域を皮切りにトランジション・タウン活動が始まりました。日本には2012年7月現在で32のトランジション・タウンがあり、各地域で活動をしています。

TFujino02.jpgトランジション藤野は2008年秋に結成されました。結成した当初は、説明会や映画上映などのイベントで問題を共有する活動からスタートしました。そして地域通貨「よろづ屋」を立ち上げ、このネットワークが地域のつながりをつくり、拡大に大きな役割を果たします。

地域通貨「よろづ屋」は、トランジション藤野たち上げ2年目の2009年に15名のメンバーでスタートし2012年現在では150世帯が参加するネットワークとなっています。商品の交換やレストランでの利用のみならず、ペットの世話や畑の草刈、子どものお迎えなど、「お金(円)を出して頼むほどのことではないが手を貸してもらえると助かる」という地域のニーズを掘り起こし、「手を貸してあげられる人(地域の人的資源)」をつなぐことでネットワークは成長していったのです。2011年に発生した東日本大震災では、義援金や緊急支援物資の収集・仕分けチャリティ・イベントの定期開催など、被災地への支援にもこのネットワークが力を発揮しました。

そしてこの「よろづ屋」のネットワークを生かして、さまざまなワーキンググループ(WG)が誕生しました。間伐などによる里山保存を行う「森部」、穀物を中心に食物の自給率を上げる「お百姓クラブ」などユニークなWGが立ち上げられ、トランジション藤野結成から4年経った今、地域の人々がおのおの自分の興味のあるものに主体的にかかわり活動しています。

日本の活動には、トランジション・タウンの頭文字である2つの「T」を使った「楽しく・つながる」というキャッチフレーズがあります。その言葉どおりトランジション藤野のメンバーは、地域の自立にかかわる活動に、無理せず、生活を楽しみながら取り組んでいます。自立した安心で幸せな生活、それはトランジション・タウンの活動を通じて培われた、地域の人と人との温かいつながりが支えています。


エネルギーの自立に取り組むWG「藤野電力」

2011年3月に発生した東日本大震災、そして福島第一原発事故をきっかけに、多くの日本人が電力会社から買っていた電力や、今まで無関心であったエネルギー問題について考えるようになりました。

3・11以前は便利で経済的ともてはやされていたオール電化住宅ですが、家中のエネルギーをすべて電力に頼っていたため、地震後の停電により生活すべてがストップしてしまい、多くの人が大変な思いをしました。そんな問題も影響し、太陽光発電のように自分の家で発電できるシステムや、電気自動車のバックアップ電源としての利用に関心が高まり、エネルギーの自給や多様性の重要性に多くの人が気づき始めました。

この3・11の事故をきっかけに誕生したWGが「藤野電力」です。「藤野電力」は、今まで当たり前のように使っていた電力会社から送られてくる電力に依存することから脱却し、地域のエネルギーを住民自ら参加できる自立分散型へ移行させるため、2011年に誕生しました。

「藤野電力」が最初に取り組んだのは、地元のお祭りでのライトアップやサウンドシステムなどへの電源供給でした。東北地方のお祭りにも出かけていき、自然エネルギーによる電源供給で被災地の支援を行いました。

TFujino03.jpgまた「エネルギーシフトは自宅から」と、太陽光パネルやバッテリーなどをつないで太陽光発電システムを組み立てる、初心者向けの「太陽光発電システムワークショップ」も月1回開催しています。

2011年12月にスタートしたこの「太陽光発電システムワークショップ」、最初は友人同士で教えあっていたものが話題を呼び、半年足らずでテレビや雑誌などに紹介され、地域の住民だけでなく遠くから足を運ぶ人も増えてきました。

太陽光発電システムワークショップの会場は、トランジション藤野が活動拠点にしている、廃校となった旧牧郷小学校の一室です。参加者は親子づれや夫婦、若いカップル、女性一人のみとさまざま。見学のみの参加者も受け付けており、今では太陽光発電システムを組み立てる10組ほどの参加者と、説明をする数名のスタッフ、そして十数名ほどの見学者で小さな教室はいっぱいです。

太陽光発電システムの組み立作業自体は、女性や子どもでもできる簡単なものです。しかし、組み立てる順番を間違えるとショートしたりする危険があります。スタッフのそんな説明に参加者は真剣に耳を傾け、見学者も積極的にスタッフに質問したり写真を撮ったりと、熱気に包まれワークショップは進みます。組み立ては2~3時間ほどで完了し、早速自前の発電システムにライトをつなぎ、明かりが灯ると会場から大きな拍手が起こります。

ワークショップ参加費は、標準組み立てキットの費用込みで42,800円。ある参加者は「これだけのキットを自分で集めた場合の価格とほとんど変わらないので、教えてもらった方が良いと参加を決めた」とのこと。東京の平均月収が手取り約24万円なので、月の給料の5分の1程のお金で太陽光発電システムが手に入るというわけです。

標準キットでは出力50ワットのパネルを使用しています。パソコンや携帯電話の充電に使用する人が多いようで、50ワットのノートパソコンなら昼間の充電で4~6時間は使用可能となるそうです。2012年7月末には、このワークショップで組み立てた太陽光発電システムの累積出力は1万ワットを超えました。今ではお祭りなどのイベントの際には、過去にワークショップに参加した人に呼びかけ、持ち寄り太陽光発電システムで電力の供給量を充実させ、お祭りを盛り上げています。

藤野電力では、地域の新築の個人宅へも太陽光発電システムを設置する活動も行っています。2012年7月までに3件の設置を行い、その費用は50ワットパネルの設置に約8万円、100ワットパネル設置で約15万円でした。

このシステムで完全に電力の自給を可能にすることはできませんが、電力会社への依存度を下げ、エネルギーの自立を高めることは、「生きるためのバックアップ」となり、より安心な生活を手に入れることとなります。

ほかにも、2012年5月に知り合いの大学教授から170枚の旧式の太陽光パネルを譲り受け、これを使い、拠点としている旧牧郷小学校の電力を100%自家発電し、その余剰電力で電気自動車への充電にも取り組むというプロジェクトも進行中です。藤野電力は、太陽光だけでなく小水力、風力に取り組み、地域にある資源を生かし、今後もエネルギー自給率のさらなる向上を目指しています。

エネルギーだけでなく生活すべてにおいて、地域の自給率を上げ地域の外側のグローバルなシステムからの「脱依存」は、地震などの広範囲な有事や危機に左右されないような地域の底力「レジリエンス」を高めることとなります。トランジション藤野ではその活動を通じて、地域の絆や、資源、マンパワーを活用し、地域の自立を高めています。

トランジション・タウンは、地域の資源、伝統、文化を活用し、持続可能な自立したコミュニティに発展させる活動です。したがって、その形態は一様ではなく、各地域さまざまです。日本では、2012年7月現在で、準備中を含めて一週間に1つというペースでトランジション・タウンが誕生しています。これからも「藤野に続け」と、日本各地で個性的なトランジション・タウンが誕生するでしょう。そんなトランジション・タウンの今後の展開がとても楽しみです。

(※)2010年4月、相模原市の政令指定都市移行により藤野町は緑区となり、現在「藤野」という表記はなくなっています。

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(スタッフライター 米田由利子)

 

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