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Case.50

イタリア「1ユーロ物件」事業:人口増・経済活性化・景観保全の一石三鳥ねらう取り組み

日本同様、地方の過疎化が問題になっているイタリアの自治体で、「1ユーロ物件」事業というユニークな過疎化対策が広がっています。老朽化した家屋を1ユーロで売り出すことで、人口を増やして地域経済を再活性化させるだけでなく、景観や伝統も保全しようという取り組みです。

イタリアの過疎化は、地震などの自然災害や若者の流出や住民の高齢化による人口減少で、特に南部の自治体で深刻になっています。多くが古い歴史を持ち、美しい景観や伝統文化が残っている村々です。「1ユーロ物件」事業は、そのような村の一つ、シチリア州サレミで2008年に誕生したと言われています。

家1軒が1ユーロ(2022年1月のレートで約130円)とは夢のようですが、どの自治体の制度でも購入条件があります。購入後の改修計画の提出、一定期間以内の改修、改修費や手続き諸経費の自己負担、改修完了時に払い戻される保証金(自治体により異なるが通常2,000~5,000ユーロ)の支払いなどは共通した条件です。ほかに、物件の用途や購入者の年齢など、独自の条件を設けている自治体もあります。改修費用は家の大きさや老朽具合、用途などで大きく異なりますが、同州ムッソメーリ村の場合、70平方メートル規模の家の基本的な改修で最低2万ユーロかかります。

歴史と伝統のある村の家屋を建て替えずに「自己負担での改修する」という条件付きのため、景観が保全できる効果への期待もあり、この事業を導入する自治体の数は年々増えています。2021年には約60の自治体が老朽化物件を売り出しました。販売件数については、全国統計はありませんが、同州のガンジ(Gangi)村ではこれまで300件以上、ムッソメーリ(Mussomeli)村では150件以上が販売されています。

導入した自治体では、国内外からの移住者や購入物件を別荘利用する人が増えたことでサービス業が復活しています。また、1ユーロ物件が呼び水となり、観光業や不動産業を含む地域経済全体が活気を取り戻しつつあります。たとえば、同州のサンブーカ・ディ・シチリア(Sambuca di Sicilia)村では2019年以降、民間業者を通じ、1ユーロ物件以外で約150の物件が売れ、その後の改修工事も含め、総額15億ユーロ以上もの経済効果がもたらされています。

詳しい条件や規約、販売物件の情報は各自治体がオンラインで提供していますが、そのほとんどがイタリア語です。興味を持った外国人でも情報収集しやすいよう、全国の1ユーロ物件情報を集めた民間の英語版ウェブサイトも登場していますが、地元愛で立ち上がった若者の協力を得て、積極的に物件情報を発信している自治体もあります。

それが同州カマラータ(Cammarata)村の取り組みです。村は、「シチリアの伝統的な生活様式を守り伝えたい」という思いを持つ村出身の若者たちが2021年に立ち上げた非営利団体「StreetTo」と、1ユーロ物件業務の委託契約を結びました。同団体は英語の村内物件情報サイトの運営や情報発信のほか、興味を持った人に物件や村を案内したり、1ユーロ物件以外の格安物件を紹介したりしています。

過疎化対策や地域経済の活性化と同時に、歴史ある村の景観や伝統の保全にも一役買っているイタリアの1ユーロ物件事業。サルデーニャ州のオッロラーイ(Ollolai)村が2021年12月から始めた「賃料月額1ユーロ物件事業」のように新たな展開も出てきています。新型コロナウイルス感染の拡大を受け、世界中の「デジタル遊牧民」の間で、イタリアの静かでのどかな村の魅力が高まっているとも言われており、この取り組みはますます広がりを見せていくかもしれません。

(たんげ ようこ)

 

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