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Case.35

海士町の「わがトコ・わがコト調査」:約75%が「生活に満足」、全国調査と比べても高い結果

海士町の「わがトコ・わがコト調査」:約75%が「生活に満足」、全国調査と比べても高い結果

島根県隠岐郡海士町は、本土(海士町の人たちは、本州のことを「本土」と呼びます)からフェリーに乗ること約3時間、島根県の沖合60kmの場所に位置する約2,300人が暮らす離島です。海士町は地方創生の優良事例としてよく取り上げられるので、ご存知の方も多いのではないかと思います。

海士町では、2017年に「わがトコ・わがコト調査」という独自の住民調査を行いました(幸せ経済社会研究所では、そのお手伝いをさせてもらいました)。この調査は、ブータンの国民総幸福(GNH)の9分野(主観的幸福・生活水準・健康・地域の活力・時間の使い方とバランス・教育・環境の多様性・良い統治・仕事)や、家庭の自給率やおすそ分けの頻度について、住民の考えや行動を調べたものです。また、他の地域と比較するために、同様の調査を全国でも行いました。

海士町の調査結果は海士町のウェブサイトでも公表されていますので、今回は「安心感」と「充実した生活」の2点に焦点を絞り、全国調査との比較を中心にご紹介します。

海士町「わがトコ・わがコト調査」の集計結果について
http://www.town.ama.shimane.jp/topics/2000-1/post-191.html

約75%が「生活に満足」と回答:全国調査と比べても、明らかに高い結果
「現在の生活に満足しているかどうか」という質問に対して、海士町では「満足している」「まあ満足している」(ここからは、この2つのカテゴリーを合わせて「満足している」と記します)と回答した人が約75%もいました。全国調査の結果は約55%でしたので、全国と比較しても、海士町では生活に満足している人が非常に多いことがわかります(図1・図2)。

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また生活費についても、海士町では「満足している」という回答が約56%、こちらも全国の結果(約37%)よりも高い数値でした(図3・図4)。しかし海士町は、一時期は北海道夕張市のように財政再建団体になることを覚悟していたほどで、経済的に豊かな地域とは言えません。また離島であるため、島で生産できないものは全て本土から「輸入」しなくてはならないため、物価が安いわけでもありません。それにもかかわらず、なぜ、生活満足度や生活費についての満足度が高いのでしょうか? その秘密は、「野菜などの自給」や「おすそ分け」といった非貨幣経済の経済循環が活発なことにあるのかも知れません。

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活発な非貨幣経済活動:自給率とおすそ分け
食料の自給について、「自宅用に野菜を作っているか」と尋ねたところ、海士町では40%以上が野菜を作っていると回答しました。そして約35%が「魚や山菜を採っている」と回答しています。また、家庭の食料自給率(自分で作った食べ物のほか、おすそ分けで頂いたものも含む)を尋ねたところ、約半数の人が「食料自給率は40%以上」と回答しました。全国調査では「食料自給率は40%以上」と答えた人は約25%でしたので、15ポイントほど海士町の方が高い結果です。

また「この1年間におすそ分けを行ったかどうか」という質問についても(図5・図6)、海士町では「よくした」「ときどきした」という回答が約71%にも上りました(全国調査では約38%でした)。日本でも地方に行くと、自給自足的な生活が営まれている集落がありますが、海士町もこうした伝統が続いている地域の一つであることがわかります。

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おすそ分けに関連して海士町で面白い話を聞きました。海士町は治安も良いので、家の鍵をかけない人も多いそうです。なぜなら、町の人達はみんな知り合いなので、知らない人がウロウロしていたら、あっという間に分かってしまう「警備会社要らず」の町だからです。それどころか「家に鍵をかけたら、おすそ分けがもらえなくなってしまう」という発言まで! 留守でも、玄関をがらりと開けて、おすそ分けを置いていく光景が目に浮かぶエピソードです。また、家に鍵をかけて出かけたら、郵便受けにおすそ分けの生魚が入っていて、しばらくの間、郵便受けが生臭くなってしまったという話も聞きました。

調査結果に加えて、こうしたエピソードからも、非貨幣経済が発展していればお金を使わなくても済むこと、また治安が良いことも、海士町の生活や生活費への満足を大きく押し上げている可能性を指摘することができます。

今回の調査では、悩みや不安についても尋ねましたが、全国調査では「今後の収入や資産の見通しについて」の悩みや不安がある人は約52%、「現在の収入や資産について」の悩みや不安がある人は約43%と、約半数の人が金銭的な不安を抱えていました。それに対して、海士町では「今後の収入や資産の見通しについて」の悩みや不安がある人は約30%、「現在の収入や資産について」の悩みや不安がある人は約22%と、金銭的な不安を持つ人が少ないことがわかりました。この結果も、非貨幣経済が発達していることと関係がありそうです。

充実した暮らしぶりと「時間のゆとり」
海士町のことをご存知の方は、海士町では人々がのんびりと暮らしているイメージを持っているのではないでしょうか。ところが、海士町の調査では、「時間にゆとりがある」と回答したのは約60%、全国調査とほぼ同じ結果だったのです。これは想像とは異なる結果です。今回の調査結果からだけでは、この理由を明らかにすることは出来ませんが、「暮らしが充実している」ことと「時間のゆとり」は関係しているのかもしれません。

例えば、「仕事のやりがいを感じているか」という質問では、海士町では「感じる」と回答した人が約69%いました。これは全国調査の約47%よりも20ポイントも高い結果でした(図7・図8)。ここから仕事の場で、充実した生活を送っている人が多いことがわかります。また「この5年間に伝統的な祭りや行事に参加した」人の割合は、海士町では約69%なのに対して、全国では約38%と海士町の方が高いことや、「地域の課題を誰かに話した」人の割合は、海士町では約57%、全国では約21%と海士町の方が高いなど、地域の行事や問題点にも取り組んでいる様子が伺えます。

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このように仕事でもプライベートでも充実した生活を送っていることが、結果として「時間のゆとり」が全国の水準とあまり変わらない結果に結びついた可能性があるのではないでしょうか?

今回の調査では全体として、ブータンの国民総幸福の9分野(前述)のうち、7つの分野で、海士町のほうが全国調査よりも数値が高いなど、海士町の幸福度の高さがあきらかになりました。公私にわたり暮らしが充実していれば、たとえ時間のゆとりが大きくなくても、全体として幸福度が高くなることを示唆する今回の調査結果は、(過度な長時間労働が良いという意味では決してありませんが)私たちの暮らし方を考えるうえで大きなヒントになるのではないでしょうか。

以上のように、海士町の「わがトコ・わがコト調査」では、予想通りの結果もあれば、意外な結果もありました。海士町では、この調査の結果を、2019年に策定予定の「第五次海士町総合振興計画」にも活かす予定だそうです。このように、その地域の特徴を踏まえた調査を行うことによって、現状を正しく把握することが可能になるだけではなく、将来の計画を立てる際の助けにもなります。

この調査について
海士町調査:2017年3月31日から4月14日にかけて、20歳以上の海士町住民を対象に郵送調査で行われました(年齢層別無作為抽出)。有効回答は232票、回収率は47%でした。
全国調査:2017年6月15日から6月17日にかけて、20歳から70歳のマクロミルのモニタ会員を対象にインターネット調査で行われました(年代、性別および大都市/中小都市・地方の割合は日本人口比に合わせています)。回答数は1041でした。

(新津 尚子)

 

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