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Case.40

GDPを超える第一歩:『真の進歩』を測定するメリーランド州の経験

(Sustainabilityより)

現在、繁栄の指標としての国内総生産(GDP)に限界があることは、広く認識されており、「GDPを超える」代替案を模索する動きに結びついています。

米国メリーランド州では2010年に、当時の州知事マーティン・オマリー氏が他の州に先駆けて、こうした代替案のひとつである「真の進歩指標」(Genuine Progress Indicator GPI)を測定することを宣言し、測定が行なわれてきました。

今回の「注目の取り組み事例」では、メリーランド州のGPI測定に関して、Sustainability誌で取り上げられた論文をご紹介します。この論文は、オマリー前知事をはじめとする14人の精鋭へのインタビューや、関連するさまざまな文書の分析を情報源として、この取り組みがメリーランド州に実際どのような効果をもたらしたか、目標を達成するためにどのような障壁があるのかなどについて考察しています。

概観:2007年に就任したマーティン・オマリー知事は、その年に「持続可能な未来のための事務局(Office for a Sustainable Future)」を立ち上げました。2009年に州の職員からなるワーキンググループが、州内総生産(Gross State Product GSP)に代わる指標の模索を始め、GPIはGDPと同様に貨幣価値で測られるので、同じ尺度で比較することができるという利点があることを見出しました。そして2010年に、メリーランド州で最初のGPIのデータが発表されたのです。データからは、1960年の測定以来、GSPに比べて緩やかな増加ではあるものの、GPIの数値が頭打ちになる兆しはないことが読み取れます。

見込みと動機:

  • GPIは、GDPやGSPのような従来の経済指標を補完するものとして作られ、それに代わることを目的とはしませんでした。メリーランド州の全体的な状況を、より正確に描き出すための付加的な指標を目指したものです。
  • GPIの測定により、「より良い決定」や「より確かな情報に基づいた持続可能な政策決定」を可能にし、政策決定者が「その決定がもたらすコストと恩恵のバランスをより良くする」手助けとなることが見込まれました。
  • GPIの取り組みによって、政府内の異なる部門の人々が共通の目標を持って話し合うことができ、部門の境界を超えたコミュニケーションが生まれます。
  • オマリー前知事が重視したGPIの見込みのひとつとして、一見すると異なる諸政策を分析することで、それらに強い関わりがあることに気付く手助けをすることが挙げられます。
  • GPIは、予算作成のプロセスの情報を提供する手段になります。
  • GPIは、ビジネスや経済構築における、メリーランド州の強みを話し合うための良い手法です。
  • GPIは、「すべての成長は良くない」とするのではなく、人々にとって良くない成長は取り除き、良い成長を測定し続けるものです。
  • GPIを支援することは、持続可能性を妨げるような既存の政治的、経済的、文化的な枠組みを打ち破るための投資になります。

効果と影響:

  • 政策案に対してGPIが与えた影響の一例として、「2020年までに公共交通機関の利用を2倍にする」という知事の宣言により、GPIの根底にある多くの指標(大気汚染の減少、余暇の増加、渋滞の緩和、事故や死亡事故の減少など)が改善されたことが挙げられます。
  • GPIは、特定の政策や取り組みを支えるために用いられるので、その政治的な効果がはっきりと分かります。
  • ・GPIの取り組みは、他の州の関連する取り組みやメリーランド州内の他の取り組みも後押ししています。
  • GPIに関して当初の期待を上回る効果を実感している人もいます。

結論
メリーランド州のGPI測定に関する取り組みは、まだ完全に実現されたとは言えないものの、より環境や社会を考慮した政策決定への興味深い可能性を示しています。また期待以上の進展があり、他の州におけるGPIの取り組みの促進を後押ししています。しかしながら、政治に直接的な目立った影響を与えるには至っていません。またGPIの目的や、指標としての限界について疑問の声もあります。このような課題はあるものの、進行中のさまざまな取り組みやNGOの意識の向上、そしてメリーランド州がGPIを測定し続け、革新的な方法で政策決定に適用する取り組みを復活させることなどによって、いずれ影響が現れるでしょう。

 

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